マンション管理組合の役員を辞退したらペナルティという考えは「あり」なのでしょうか?
マンション管理士がこの命題にお答えします。
結論は、実質的なペナルティはあり得ると考えます。
しかし、感情的なペナルティという方法でこの命題を解決する方法はおすすめしません。
また、共同住宅である以上、ペナルティに該当するような組合員の協力が必要な時もあります。
この記事でわかること
- ペナルティという方法をおすすめしない理由
- ペナルティに代わる代替案のおすすめ
この記事を読まれている方は、次の2通りだと思います。
1⃣ 管理組合の役員辞退の罰則の有無、または、金銭での解決方法を知りたい方。
2⃣ 管理組合の役員で「役員の成り手不足」の問題でお困りの方。
本記事の内容は基本的に2⃣の管理組合の役員の成りて不足の解決案を中心に説明しています。
管理組合の役員を辞退できるかどうかを知りたい場合は次の記事を合わせてお読みください。
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【 目 次 】
マンション管理組合の役員辞退にペナルティをおすすめしない理由
はじめに、同じ建物を所有する組合員同士の紛争というものは避けた方が良いというのが前提です。
実際にペナルティを課しているマンション管理組合があることを伝え聞くこともありますがおすすめしません。
理由は、ペナルティという方法が過激である点、マンションのコミュニティが崩れかねない点、対立関係が激化して訴訟に発展すると労力と費用が莫大になるからです。
訴訟に発展した場合でも全面勝訴になるかどうかは分かりません。
また、ペナルティを課すといっても、金銭以外のペナルティを課すことは困難と思われます。
そして、金銭のペナルティを課すことが合法であったとしても、喜んで金銭を支払って役員を辞退する人も現れるかもしれません。
つまり、ペナルティという考え方は「誰のためにもならない」と考えます。
ペナルティに類似する「住民協力金」を課した事例
ペナルティに関する訴訟の事例はありませんが、参考になる判例があります。
具体的には、管理規約の役員就任資格を「居住する区分所有者と配偶者および、その三親等以内の親族」と定めているマンションでの事例です。
この管理規約の規定により、マンションに居住する役員対象者にばかり負担が偏るという意見が出ました。
最終的には、外部に居住する所有者に月額2,500円の「住民協力金」の支払いを求める判決が確定しました。(最高裁三小判平22・1・26 判時2069-15)
最高裁の判決で適法とされましたが、その過程の地裁で棄却された内容が複数ある点、業界内での批判の声がある点に留意が必要です。
たとえば「住民協力金」の負担を求める前に、外部居住の所有者に役員の就任資格を認めるよう、管理規約の改正をすれば、外部居住者でも積極的に協力する組合員も少なからずいたはずです。
さらに、この事例では「役員報酬」を受け取る決議もなされています。
役員報酬を受け取るのであれば、外部居住者に負担を求める金額は郵送物を送付する作業料と郵送代くらいが妥当という意見もあります。
マンション管理組合の役員辞退に対するペナルティの代替案
役員の就任辞退に対するペナルティに関する一つ目の代替案は、役員の就任基準を広げることです。
例えば、管理規約に「居住する組合員の中から総会で選出する。」とある場合は「居住する」の部分を削除して、外部居住の区分所有者も対象とすることが出来ます。
また、1つの住戸の区分所有権を共有している場合は、共有している割合にかかわらず、いずれかを代表として役員に就任するよう、両者に依頼することが出来ます。
さらに、踏み込むことになりますが「組合員の配偶者や3親等以内の親族」を役員になることが出来るように、管理規約を改正することも出来ます。
このように役員資格の対象者を増やすことで、役員に就任してもらえる可能性が高まります。
その他、区分所有者でない外部の専門家を役員にすることも検討できます。
2つ目の代替案は「役員報酬」を設定する方法です。
先程の判例では「役員報酬」の決議がなされたのは「住民協力金」の決議より後の理事会決議です。
この対応の順序が逆と考えますし、役員報酬の支払いは総会決議で予算承認を得るべき事項と考えます。
つまり、役員辞退者に対して金銭を徴収するのではなく、役員を引き受ける人に報酬を支払う方法から始めるべきと思います。
「役員報酬」を先行すると管理組合の支出だけが増えて、収支が悪化するという問題も出てくるでしょう。
その場合は、一部の所有者に負担を求めるのではなく、全所有者の専有部分の面積割合に応じて公平に管理費を増額すれば良いと思います。
全ての所有者の管理費が増額されますが、役員を引き受ける人は役員報酬として収入が増えます。
役員を辞退する人は収入として戻ってくるものがありませんので、実質的なペナルティのようなものです。
さて、役員報酬の決定方法の話に移ります。
あなたのマンションの管理規約を確認してみてください。
管理規約の役員報酬の条文に「別に定める」と記載がある場合は、総会の普通決議によって役員報酬を決めることが出来ます。
通常、普通決議は管理規約に「出席組合員の議決権数の過半数で決する。」と規定されていることが多いです。
また、管理規約に役員報酬の規定がない場合や「管理規約で定める」と記載がある場合は、総会の特別決議(区分所有者総数の4分の3以上および議決権総数の4分の3以上の賛成)で管理規約を改正すれば問題ありません。
管理規約の改正は、以下の国土交通省の標準管理規約を参考にすると良いと思います。
管理規約の改正は特別決議が必要となりハードルは高いです。
しかし、一度「別に定めるところによる。」と改正しておくと、その後はハードルの低い普通決議で役員報酬を決定・変更が可能です。
国土交通省の標準管理規約
(役員の誠実義務等)第37条 役員は、法令、規約及び使用細則その他細則(以下「使用細則等」という。)並びに総会及び理事会の決議に従い、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとする。
2 役員は、別に定めるところにより、役員としての活動に応ずる必要経費の支払と報酬を受けることができる。
役員報酬の規定は国土交通省の標準管理規約に明記されており、半ばお墨付きを得たような方法です。
ペナルティという過激な方法よりも、望ましい対応と思われます。
役員報酬の報酬額と支払方法
役員報酬の額は、理事長、副理事長、理事、監事、防火管理者というような役割に応じて決めることになるでしょう。
一般的に、理事長は他の理事の2倍程度の報酬でも良いと思います。
その他の役員は一律の額でも問題ないくらいです。
各マンションの実情に応じて決定してください。
次は、役員報酬の支払方法です。
まず、役員に就任した時点で一定の額を支払う方法で良いのではないでしょうか。
その後、役員を引き受けても理事会等に出席が出来ない方、出席しない方がいると思います。
そこで、各役員の報酬の上限を定めておいて、理事会・総会への出席回数等に合わせて一定額ずつを分割支払いする方法です。
このようにすることで、役員を引き受ける人、さらに理事会等で積極的に協力する人とそうでない人の不公平感も解消されると思います。
下表は国土交通省の「平成30年度マンション総合調査結果(平成31年4月26日公表)」(P95-P104)を基に、役員の報酬額の平均値をまとめた内容です。
項目 | 全体の平均報酬額 |
役員報酬額が一律の場合 | 39,000円 |
役員報酬額が一律でない場合の理事長の報酬 | 95,000円 |
役員報酬額が一律でない場合の理事の報酬 | 39,000円 |
役員報酬額が一律でない場合の監事の報酬 | 32,000円 |
上記表は平均値ですので、マンションの規模や収支状況に応じて1万円から10万円程度の間で決定されることが多いようです。
まとめ
マンション管理組合の役員辞退に関して、役員の仕事を引き受ている組合員からすると「ペナルティ」という発想を抱く気持ちは察するものがあります。
しかし、私の経験上、管理組合の業務を個人的な感情や感覚、あるいは、声の大きい一部の組合員の意見に押されて進めてしまうと良い結果にならないことが多かったと思います。
ペナルティという言葉そのものも良くないと思いますが、法的根拠が明確でない領域に踏み込むことはリスクを伴うと思います。
また、過激な行動によってトラブルを誘発すると、無駄な労力を費やすだけです。
管理組合の役員としては、所有者全員に「アンケート」を取るなどして、全体の理解を得ながら公平感のある運営が出来るよう、段階を踏んで進めることをおすすめします。
なお、意図的に役員を辞退するような行為は、役員に就任している他の所有者と疎遠になっていくというペナルティが発生する恐れがあります。
止むを得ない事情がない限り積極的に管理組合業務に協力されることをおすすめします。