大地震によるマンションの断水の原因は「停電」が主です。
また、断水で何に困るのかというと「トイレ」と「飲み水」です。
震度7以上のような大地震の場合は公共交通機関が停止し、管理会社等が1週間以上も来ないことも珍しくありません。
マンション居住者側で自発的に対策する方法も事前に考えておく必要があります。
今回は、マンションが断水した時に水が使える可能性のある方法をマンション管理士の私がご案内させていただきます。
この方法は、マンション居住者で出来る方法ですが、意外と不動産業界でも知らない方が多いです。
この記事でわかること
- マンションで断水した時の対応
- マンションの断水に備える対応
【 目 次 】
高層マンションの断水時は共用部分の水道を使ってみる
高層マンションで断水が起こる原因はほぼ停電です。
3階以上の建物のほとんどは「給水ポンプ」という電気設備を使って高層階まで給水しているからです。
停電の復旧とともに、この給水ポンプも自動復旧する場合が多いです。
今回は、大地震で「停電」と「断水」が長期間にわたって続くケースを中心に説明しています。
下図は10階程度の建物の給水ポンプです。
1台が壊れても良いように2台が交互に運転しています。
高層マンションになるともっと大きくなりますし、ポンプの台数も3台以上になります。
このように電気設備で給水しています。
「停電」で給水ポンプが停止すると断水します。
戸建て住宅の場合はどうでしょうか。
戸建て住宅の高さは高くても3階までです。
この高さの場合は給水ポンプは不要です。
水道本管の水圧でその高さまで給水できるからです。
話をマンションに戻します。
マンションの給水系統は2つ以上に分かれています。
2つ以上の系統とは「給水ポンプを使って給水する系統」と「給水ポンプを使わずに給水する系統」です。
給水ポンプを使わずに給水する系統は、高さ3階までで共用部分の給水です。
どこのマンションでも該当すると思われる場所は「1階管理員室」「1階ペット足洗い場」「散水栓」「集会室」等です。
散水栓は聞き慣れない言葉かもしれませんが、ごみ置き場の清掃、植栽の水やり等の給水設備です。
次の写真のようなものになります。
「散水栓の水は飲んでも大丈夫?」と思われるかもしれません。
問題ありません。
むしろ、水道本管から距離が近いので、殺菌成分の残留塩素濃度が高く、高層階の住戸の飲料水よりも安全といえます。
蛇口部分が汚れているかもしれませんので、その部分をきれいに洗ってから飲み水として利用できます。
以上のとおり、大地震等の「停電」による断水が発生した場合、給水ポンプを経由していない共用部分の給水栓を使えます。
水道本管が断水していない限り、水は出るはずです。
マンション周辺の戸建て住宅が断水していないなら給水出来る可能性は高いです。
管理員室がオートロックで施錠されている場合は、大災害時であれば窓を壊してでも開放すると良いでしょう。
管理員室に水洗トイレがある場合は、皆で共有することでトイレにも困りません。
ここまでの説明で「3階までなら共用部分以外の住戸内も断水しないのでは?」と思われる方がいるかもしれません。
しかし、一般的に共用部分と住戸部分の給水の系統もまた分けることが多いです。
理由は水道料金を住戸部分と共用部分に分けるためです。
したがって、断水時の住戸部分は3階以下も含めて全住戸が断水する可能性が高いです。
断水しないのは、水道本管に直結にしている3階以下の「共用部分」ということになります。
ということは、1階に限らず3階までに共用部分(集会室、コミュニティルーム等)がある場合は、その場所も断水していない可能性があります。
管理組合の理事長等が共用部分の鍵を保管している場合は、利用することができるかもしれません。
注意点は、共用部分の鍵を管理組合理事長等で管理していないと共用部分に入ることが出来ない点です。
屋外の散水栓についても無断使用不可になっている場合が多く、下図のように蛇口の取手部分を外されていることがあります。
災害時に水を出したくても取手部分がなくては蛇口をひねることが出来ません。
ペンチ等でも回せるかもしれませんが、不便で仕方ないでしょう。
災害が起こる事前の備えとして、取手部分の形状を確認して管理組合の理事長等で保管しておくと良いと思われます。
写真の「共用水栓用鍵(SANEI)」は、たいていの散水栓に当てはまります。
ご紹介したこの方法は、ほぼ全てのマンションにあてはまります。
関心のある方は実際に確認してみてください。
飲料用貯水槽の水の使い方
つづいて、マンションで断水した際に利用できる飲料水として、上図のような飲料用貯水槽が設置されている場合です。
飲料用貯水槽がある場所へは、通常は立ち入ることが出来ません。
地震被害が発生する前に鍵の管理や利用ルールを決めておく必要があります。
マンションの飲料用貯水槽の場所は給水方法によって変わります。
まず、地下階に飲料用貯水槽があるケースは、水道本管の水を貯水槽に溜めてから給水ポンプで高層階まで送ります。
住戸数が一定以下の場合は、地下階に飲料用貯水槽を設置せずに、水道本管の水をそのまま給水ポンプで給水する方法も増えています。
また、最近は少なくなりましたが築年数の古いマンション等では、屋上に飲料用貯水槽が設置されているケースがあります。
給水ポンプで屋上の飲料用貯水槽まで水を送りこんで、そこから水の重さを利用して高層階から低層階まで給水する方法です。
屋上に飲料用貯水槽があるマンションで停電が起こった場合は、給水ポンプが停止しても屋上の飲料用貯水槽に溜まっている飲料水はなくなるまで断水になりません。
しかし、全世帯がいつもどおり利用していると、半日から1日で飲料用貯水槽の水はなくなるでしょう。
お風呂、トイレ、食器洗い等を除き「飲み水」に限った利用にすると、2日から3日は利用出来る可能性があります。
話が戻りますが、地下階等に飲料用貯水槽がある場合です。
まず、自分のマンションの地下階に飲料用貯水槽があるかどうか管理会社などに確認する必要があります。
地下階に飲料用貯水槽がある場合は給水ポンプの手前に位置する設備ですので、停電の時は飲料水が溜まったままになっています。
貯水槽内の水の残留塩素濃度が一定以下の数値になるまでは飲むことが出来ます。
貯水槽内の水の消費期限は3日程度が目安です。
3日目以降は専門知識を理解した上で適量の次亜塩素酸ナトリウムを加える方法や、煮沸消毒して利用する方法等、ルールを決める必要があります。
なお、この飲料用貯水槽の水を飲むためには、水抜き用の水栓を回す必要があります。
たいていは、飲料用貯水槽の下に設置されていて、潜り込まないと開栓が難しい場所になります。
(新たに開栓しやすい災害時専用の蛇口を設置するには、何十万円という単位の工事が必要です。)
地震の備え|マンション内の保存水・トイレ
東日本大震災後に、マンション全体で防災備品を備えるところも多くなりました。
マンション全体で防災備品を備えるといっても、多くのマンションでは保管場所や費用で困ることも多いと思います。
基本的には備蓄品は各ご家庭で用意するように案内をする方がベストです。
5年程度で消費期限の切れる食品を管理組合が購入しても、期限切れを皆で食べる機会を作るにも面倒だからです。
管理組合として設置するものは、食品以外のポータブルトイレ、救出用の工具(バール等)、手巻き式充電ライト、ヘルメット、軍手、高層階から負傷者を下す担架等で良いと思います。
中でも困るのがトイレと水です。
東日本大震災後のアンケートで最も困ったという結果が出ています。
断水すると2次被害的に「トイレ」の始末に困ります。
一定量の簡易トイレを確保しておいた方が良いと思われます。
トイレは、1人当たり1日3回として、マンションの住人数を計算するとかなりの量が必要になります。
簡易トイレなら保管場所に困りません。
1階の管理員室、3階までにある集会室等の水洗トイレを共同で使えると良いですが、万が一に備える必要はあるでしょう。
次に困るのが飲料水です。
コストパフォーマンスに優れた15年保存水があります。
北海道の「カムイワッカ麗水」です。
1本(2L)あたり約500円ですが、15年保管できることを考えると他の保存水よりお得です。
各ご家庭で気兼ねなく自由に使える保存水は備えておきたいところです。
また、マンション管理組合としても一定数を確保して、配布順などを決める必要があると思われます。
なお、消費期限の管理については、消費期限までに飲んで消費する方法が一つです。
保管場所がある場合は、飲料用以外に災害時の手洗い用やトイレを流す水用として保管することも検討できます。
まとめ
今回は大地震等でマンションが断水になった際の対策をまとめました。
特に、水道本管に直結している水道水の利用は、事前の準備がなくても、断水が起こった際に役立つかもしれません。
また、重要なことは大災害が発生した場合は、公共交通機関が停止すると、外部からの支援が途絶えるという点です。
このような事態に備えて、マンションの住民が主体となって災害対策を事前に準備しておくことが大切だと思われます。