2020年初頭の感染症の発生からホテルREITの運営も2年が経ちました。
長らく停滞していますが2年の運営実績から先の見通しがある程度できそうです。
今回の記事(第4回)では2022年3月現在のインヴィンシブル投資法人の現状と今後の見通しを中心にまとめています。
主な内容は次のとおりです。
1. ポートフォリオの「住宅・商業施設」を売却することで、赤字を補填している現状
2. 1の住宅・商業施設の売却による収益減少の試算
3. 2の収益減少がおよぼす分配金(配当)減少の試算
4. インヴィンシブル投資法人の分配金の完全回復に必要な[インバウンド需要]
個人的には、感染症の問題が2年以内に解決する場合は「リスクプレミアム」があると思ってインヴィンシブル投資法人に注目していました。
しかし、2年が経過しても完全回復まで時間を要しそうなため、ホテルREITを深追いせず他の高配当銘柄の投資に切替えることにしました。
投資スタイルは、その時の環境や目的、性格などで異なると思います。
もしかしたら、私の選択はより良いパフォーマンスにならないかもしれません。
たとえば、2022年3月現在のインヴィンシブル投資法人の状態で完全回復すると年間分配金は3,300円程度は見込まれます。
実現すると今の地合いなら投資口価格は再び60,000円前後まで回復すると思います。
現在の投資口価格40,000円程度で購入しておくと、将来的にキャピタルゲイン20,000円と利回り8%以上の投資につながる可能性もあります。
そのようなことも考えて他の銘柄と比べて悩みはしました。
結局、自分の場合はインヴィンシブル投資法人の投資口価格の回復もそうですが、手元に資金のはいる分配金の回復に時間がかかりそうな点と感染症の発生などのリスクのあるホテルREITに難点を感じました。
以下は、検討段階で調べた内容になります。
【 目 次 】
インヴィンシブル投資法人(8963)の分配金(配当) 2022年6月期以降
まず、住宅と商業施設の売却による収益減少がおよぼす分配金(配当)への影響と今後の分配金(配当)予想をします。
前回のブログ記事(2020年11月7日)では、インヴィンシブル投資法人のポートフォリオのうち、安定収益が見込める住宅・商業施設の売却は最後の切り札になると説明させていただきました。
しかし、記事掲載から間もなく2020年11月27日にインヴィンシブル投資法人より住宅物件の売却のIRが発表されました。
その後も2022年1月(2021年12月08日IR発表)まで売却は継続しています。
下表は2022年3月31日までの売却物件と売却金額、売却で損失する収益と分配金換算をまとめました。
発行済投資口数 6,096,840 口 (2022年3月31日現在)
IR発表日 | 物件種別(数) | 売却金額 | 賃貸事業損益* | 分配金/1口 |
2020年11月27日 | 住宅(6) | 111億円 | ▲ 3.9億円(年) | ▲ 63円(年) |
2021年06月28日 | 商業(1) | 37億円 | ▲ 1.7億円(年) | ▲ 28円(年) |
2021年12月08日 | 住宅(13) | 101億円 | ▲ 3.6億円(年) | ▲ 59円(年) |
合計 | 住宅(19)・商業(1) | 249億円 | ▲9.2億円(年) | ▲150円(年) |
*賃貸事業損益は、2019年度(1年分)の「決算説明資料(物件別収支)」のうち該当物件の賃貸事業損益の数字の合計です。
感染症の問題が発生する以前の2019年度の一口あたり分配金は年間で約3,400円でした。
しかし、感染症の問題以降は表のとおり収益源になる住宅と商業施設を売却して赤字を補填しています。
その結果、2019年12月期の状態に回復した場合でも一口あたり分配金換算で150円程の損失する計算になりました。
インヴィンシブル投資法人のIR疑応答資料(2022年3月7日)にも一口あたり分配金換算で150円の減少する見込みと記載ありました。
上表の試算と数字が合致しました。
また、元をたどると売却物件の取得費用は、金融機関からの借入れと投資家からの出資の半々くらいで調達することが多いです。
インビンシブル投資法人のIR質疑応答資料(2022年3月7日)では、取得費用を上回る売却益を除く売却代金は金融機関への借入の返済に充てているという趣旨の記載があります。
この借入れの返済は支払利息を減少させるので、一口あたり分配金換算で23円の増加が見込めるとの記載があります。
これら差引した結果、現時点で年間の一口あたり分配金は「127円」程度の減少が見込まれるいう説明がありました。
2019年度の状態に完全回復する前提で考えると、一口あたりの年間分配金はおおむね3,400円から3,300円程度まで減少する予想になります。
住宅物件の売却の分配金に対する影響は軽微で利回り与える影響も思っていたほどでもないという印象でした。
インヴィンシブル投資法人(8963)の倒産・破産リスク
感染症問題の影響はインヴィンシブル投資法人を直撃し、実質的な赤字が続いています。
そして、赤字を補填して微々たる分配金を維持するために安定収益の見込める住宅物件を売却し続けています。
2021年12月期の決算は10億円の黒字でしたが、住宅物件の売却利益を除くと実質は15億の赤字です。
さらに、次期以降は2021年12月に売却した住宅の収益3.6億円がなくなります。
現状が維持継続されると仮定した場合は、2022年6月期以降は実質として毎期(半年ごと)18億円程度の赤字が続くことになります。
赤字と物件売却が続いていることもあり、インヴィンシブル投資法人が倒産・破産するなどとおどかす人もいます。
個人的には不動産REITは、手元資金の状態を管理して融資の借り換えに失敗しないかぎり簡単に倒産はしないと思います。
また、持ちこたえるだけなら感染症の問題の中でも売却しやすい住宅物件が未だ残っています。
下表が売却の可能性が残る住宅物件と商業施設のポートフォリオです。
発行済投資口数 6,096,840 口 (2022年3月31日現在)
物件種別(数) | 売却金額* | 売却益* | 賃貸事業損益 | 分配金/1口 |
住宅(41) | 450億円 | 110億円 | 15億円(年) | 246円(年) |
商業(01) | 24億円 | 1億円 | 1億円(年) | 16円(年) |
合計 | 474億円 | 111億円 | 16億円(年) | 262円(年) |
*売却価格(想定)は、2021年12月期末「決算説明資料」の評価額とし、売却益は評価額から帳簿価格を引いた金額としています。
2022年1月までの2年間で住宅と商業施設を249億円で売却しましたが、残る物件は470億円以上で売却できそうです。
2020年から2022年までの売却分の2倍近い資産が残っているように見えます。
2倍だから単純に売却を続けたらあと4年は持ちこたえることができるのかというと、売却で収益も悪化する点を考慮する必要があります。
その上で、2021年の状態を維持する仮定で上表の住宅物件を売却するだけで2025年度まで3年程は持ちこたえることが出来そうです。
(現状の稼働率の上昇傾向が続くと物件を売却をしなくてもよくなるかもしれませんし、その逆もあるかもしれません。)
なお、念のために全ての住宅と商業施設を売却した仮定での試算もしました。
全ての住宅と商業施設を売却した場合、一口あたり分配金に与える影響は年間350円程の減少になると思われます。
感染症問題以前の2019年度に当てはめると、年間の一口あたりの分配金は3,400円から3,050円になる見込みです。
インヴィンシブル投資法人(8963)の2022年以降の見通し
今後の見通しを考える上で赤字の要因と現状を確認したいと思います。
現状の赤字の主な要因について
2021年12月期決算は、売却益を除くと実質15億円程の赤字でした。
2019年12月期の国内ホテルの賃貸事業損益は約85億円でしたが、2021年12月期は約1億円にまで減少しています。
国内ホテルの2019年12月期の平均稼働率は90%ほどでしたが、2021年12月期は51%になっている要因は言うまでもなく大きいです。
また、2021年12月期決算の物件別収支を見ると、次の要因も見逃せないと思います。
一つ目は、アメリカからの旅行客が8割を占める英国領のケイマン諸島の2物件(ウェスティン・グランドケイマン・セブンマイルビーチ・リゾート&スパ2とサンシャイン・スイーツ・リゾート)です。
2019年12月期の運営委託損益は8.6億でしたが、2021年12月期は7億円の赤字に転落しています。
2つ目は、ディズニーランドすぐ近くのシェトラン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルの受取配当金です。
2019年12月期の受取配当金は6.7億円でしたが、2020年12月期から0円が続いています。
この2つの案件だけで15.3億円の赤字要因になっています。
その他、2021年12月期の住宅と商業施設の賃貸事業収益は約9.3億円で国内ホテルの約1.2億円の収益と合わせて10.5億円ほどです。
しかし、売却済みの住宅の収益は来期以降は半年で1.8億円の収益に減少します。
その他は、主に営業外費用として支払利息と融資関連費用などの支出が毎期13億円ほど発生しています。
これら大別した項目でざっくり差し引くと、現状が続くと想定すると毎期(半年)ごとに約18億くらいの赤字になる計算です。
今後の見通し
2021年12月期までの状態が続くと赤字ですが、2年を経て夜明けの光が見え始めた気もします。
まず、ケイマン諸島のホテルに関して、商業用旅客機の運行が再開するようです。
ケイマン諸島のホテル利用者の8割を占めるアメリカは、日本より日常に戻すスピードが早く稼働率も早期に回復するかもしれません。
収益に占める割合も高く注目しておく必要がありそうです。
つづいて、国内ホテルに関しては、2021年は1年間のほぼ全期間が行動制限という対策が続きました。
ただ、行動制限の措置も回数を重ねるごとに効果が薄れています。
国内ホテルの稼働率は、2020年4月に28%まで下がりましたが、2回目以降の2021年の制限では40%くらいまでしか下がらなくなりました。
2022年2月に至っては稼働率は50%までしか下がらなくなっています。
国民全体が感染症の問題を理解して自発的に行動し始めているようです。
このように稼働率は上昇していますが、注意点もあります。
それは、客室単価が2020年から15%前後で下落している点です。
これらを踏まえてインヴィンシブル投資法人が赤字が解消されるには現状の稼働率50%程度では足りていません。
おそらく、国内ホテルの平均稼働率60%以上は必要と想像しています。
インヴィンシブル投資法人のIR質疑応答資料(2022年3月7日)でも、2021年10月~12月くらいの「RevPAR(客室稼働率×平均客室単価)」の平均値で黒字転換すると水準という説明があります。
RevPARという専門用語だとわかりにくいので、該当の3か月の稼働率の平均をとると60%くらいになります。
ということで、国内ホテルの稼働率60%くらいで投資法人全体として黒字化、物件売却をしなくてよくなる目安に出来るのではと思います。
今後の物件売却の収益減少やケイマン諸島の物件も影響しますが、稼働率60%~65%でなんとかなるレベルだと思います。
また、損益分岐点で黒字になっただけでは分配金の完全回復には至りません。
2019年12月期のレベルにまで回復するには、客室単価が回復して稼働率も85%を超えるくらいになる必要があります。
インバウンドについて
インヴィンシブル投資法人の決算説明書に、国内ホテル利用者の3割はインバウンドによる訪日外国人が占めているという記載があります。
2020年春以降の訪日外国人のホテル利用は皆無に等しいです。
また、GOTOトラベルの効果などで国内需要を喚起するにも限界があると思います。
ちなみに、前回のGOTOトラベルでは稼働率は8%くらい上昇したように見受けらます。
インバウンドなしでGOTOトラベルをしても国内ホテルの稼働率は70%前後が良いところではないでしょうか。
なお、インヴィンシブル投資法人の決算説明書によると、本格的なインバウンドの回復は2024年以降になりそうです。
根拠は、専門家にアンケートしたところ6割の専門家が2024年以降と回答したそうです。
さらに、感染症の問題とは別に2022年2月24日からはロシアと西側諸国の渡航問題が発生しています。
黒字転換をしてから分配金の本格的な回復までは相当な時間がかかりそうです。
まとめ
2021年12月期のインヴィンシブル投資法人の資料をもとに現状を調べてみました。
インヴィンシブル投資法人が倒産したりするリスクや将来の分配金が大きく減少する可能性は低いように思われます。
ただ、2020年以降の各国の感染症対策を観察してきた実感も含めて、インバウンドが戻り分配金が完全回復する道のりは長いように感じます。
今回でインヴィンシブル投資法人に関する記事は終了予定ですが、ご参考になれば幸いです。
<前回までの記事>
ブログNo1 | インヴィンシブル投資法人(8963)分配金(配当)【大幅減配】 |
ブログNo2 | インヴィンシブル投資法人(8963)配当の行方 |
ブログNo3 | インヴィンシブル投資法人(8963)配当の行方【ブログ No3】2020年9月1日IR |